自閉スペクトラム症と AAC
2025年8月7日

Mariho Hata プロフィール
神奈川県出身。小学 5 年生頃から周りの子と何かが違うと違和感を持ちはじめ、17 歳でようやく自閉 スペクトラム症と診断がつく。幼少の頃より音楽や舞台芸術に親しみ、中学卒業後は歌手活動、また劇団 公演などへの出演を経て 2015 年よりオーストリアのウィーンに留学。留学先でも、学校や外出先での パニックが起こることはあったが、周りの人に支えられて留学生活をおくった。
2021 年より日本での活動を始め、音楽/舞台活動だけでなく、自閉スペクトラム症(ASD)に関する講演会、 YouTube や SNS を使った情報発信などを行っている。
また言語学習にも強い関心をもっており、これまでに英語、ドイツ語、オランダ語、ASL(アメリカ手話)、 フランス語を学習した。
理解と安心と生きやすさを求めて
まりほさんが自閉スペクトラム症と診断されたのは、10 代の頃と比較的遅い時期でした。お母様の万里子さんは音楽家であり、「感性が豊かだ」とまりほさんの特性を前向きに受け止めながら も、パニックを起こした際には思わず「静かに」と諭してしまったこともあったそうです。
まりほさんは、自身の感情をうまくコントロールできなかったり、突然の不安や混乱から教室の床にひ っくり返って 泣き叫ぶようなパニック状態に陥ることもありました。それでもなお、定型発達の人々に合わせようと懸命に努力されていました。しかし、やがて「自分は人 とどこか違う」と感じるようになり、自らの意思でカウンセリングを希望されたそうです。
そのとき万里子さんは、「自分の無知を深く反省した」と振り返っておられました。知的障がいを伴わない重度自閉スペクトラム症であるまりほさんですが、日々の生活は多くの困難を 含んでいます。その困難を乗り越えるため、親子で何度も対話を重ねてこられました。
そのなかで、「理解は安心できる環境を生み、安心は生きやすさにつながる」ということを、実体験と して実感してこられたそうです。今では、その“理解”と“安心”を支える手段のひとつとして、AAC(拡大・代替コミュニケーション)を 活用されています。
ASD 当事者である秦まりほさんの母親秦万里子さんへのインタビュー
日常生活での困難はどんなことがありますか?
予定の変更に対する強い不安
まりほにとって「予定の変更」は、日常の中で最も大きなストレスのひとつです。たとえば、行くつも りだったお店がたまたま定休日だったり、家族が「20 時に帰る」と言っていたのに、実際には 20 時 5 分に帰ってきた——それだけでも「予定が変わった」と強く感じてしまいます。
また、待ち合わせ相手や家族が時間通りに現れない場合、その理由を限定的に予測することが難しいた め、不安が一気に膨らみます。「道が混んでいるのかも」といった想像にとどまらず、「職場が火事にな ったのかもしれない」「事故に遭ったのではないか」と、数分の遅れでも最悪の事態まで想像が広がっ てしまいます。私たちから見るとほんの些細な変化でも、まりほにとっては「走行中の電車の線路が突然途切れたよう な感覚」になるようで、大きな混乱や動揺につながるのです。こうしたことが日常の中でたびたび起こ るため、生活全体にわたって困難さを感じています。
言語以外の情報の理解の難しさ
表情や声のトーンなど、言葉以外の情報を読み取ることがとても難しいようです。そのため、冗談や皮 肉、曖昧な表現はうまく理解できず、戸惑うことがよくあります。
前述したよように「20 時に帰るね」と言うと、文字通り“20 時ちょうど”と受け取るので、それよりも 遅くなった場合とても不安になります。ですから「20 時ごろ」「20 時前後」など、あらかじめ幅を持た せて伝える工夫が必要です。
また、「机の上を片付けて」といった曖昧な指示は、「何を」「どこに」「どこまで」すればよいのかがわ からず、大きな負担になります。そうしたやり取りの一つひとつに、とても多くのエネルギーを使って います。
感覚過敏への対応
まりほは聴覚と視覚に過敏さがあるため、外出時にはノイズキャンセリングイヤホンやイヤーマフ、サ ングラスが欠かせません。電車の音や食器の音、子どもの声など、日常のさまざまな音が不快に感じら れることが多く、太陽光や室内の照明もまぶしすぎる場合があります。
そのため、家の中でもサングラスをかけていることがあります。まりほが「安心していられる環境」は とても限られていて、五感への負担もまた、日常生活の大きな障害になっています。
※自閉スペクトラム症のある日常の困難さを知っていただくために、調子の悪い状態もあえてビデオにしてくださいました。
ほかに TD Navio の良さはなんですか?
一番ありがたいのは、内蔵スピーカーで音量がしっかり出せることです。以前は音が小さくて聞き返さ れたり、「何も言っていない」と勘違いされることもありましたが、TD Navio ではそうした心配がぐっ と減りました。
騒がしいお店や電車の中、街中などでもしっかり声が届きますし、家でも家族が離れた場所にいるとき などに役立っています。
また、本体の持ち手もしっかりしていて、落とさないか心配することなく持ち運べるのも安心です。
最後に
話すことが難しい時でも、まりほの中には「伝えたい気持ち」や「必要としている支援」が確かにあります。
自閉スペクトラム症の当事者として、多くの困難を抱えながらも「どうすれば伝えられるか」を一緒に 模索し続けてきました。TD スナップという AAC ツールと出会ったことで、声を出すのが難しい場面 でも、自分の思いや希望を伝えることができるようになりました。
「話せない=伝えられない」わけではありません。適切なツールと支援環境があれば、伝える力を発揮 することができます。
まりほの経験が、同じように困難を抱える方やご家族の方々にとって、新たな選択肢や希望となればと 願っています。
まりほさん、万里子さんからのお知らせ
2025年10月4日(土)に「あなたの世界はどんな色?~親子で見つめる自閉スペクトラム症~」自主講演を行います。
詳細はこちら
あなたの世界はどんな色?~親子で見つめる自閉スペクトラム症~
日時:10月4日(土) 13時30分 開場 14時 開演
会場:藤沢SHOW HALL
定員:40名
